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中藏ではたらく人/工務部 張晶盈

文:下尾芳樹

きっかけは京町家への疑問と興味

故郷の台湾を離れ、京都で暮らし始めて6年になります。台湾・台中市の大学で建築を学んでいた時、友人から「京都で暮らしてみないか」と誘われ、軽い気持ちで来日したそうです。と言っても、当初は日本語がまったく分からず、1年半ほど日本語学校に通って猛勉強中に初めて京町家を見て、衝撃を受けたと言います。

「台湾の建築物はRC(鉄筋コンクリート)が大半。地震や湿気などを考慮し、木造はほとんどありません。ところが、地震も多く、湿度が高い日本でなぜ木造の京町家が残っているのか。」

疑問と興味がふつふつとわいてきて、京都大学工学部研究科の大学院で改めて伝統建築を学び、2年で修士号を取得しました。木造の町家が通りの随所に残る京都でしばらく暮らすことを決めて、建築関連の仕事を探しているとき、中藏に出会いました。中藏が手掛けた町家の改修事例をインターネットで見て、
「ああ、これだ。古い木造建築物が再生されて、文化や生活も継承されていく。そんな風に感じ取れたんです。」

日本と同様に台湾でも新しいライフスタイルの普及で、これまで育んできた文化や伝統が消失していくことへの危機感があるのでしょうか。すぐに中藏を訪ね、思いを伝えてめでたく採用。現在、建築現場に出て2年が経ち、現場監督の補佐役として腕を磨いています。

緊張する日も専門用語に戸惑う日も日日是好日

日本語は日々上達し、文章もすらすら書けるレベルに。現場で大工さんや左官屋さん、電気屋さんなど施工関係者とのやりとりも堂に入って、会話も弾んでいます。でも、ちょっと悩みもあるとか。
「時々通じないこともあって、職人さんにも気をつかいます。日本語って難しい。」
建築現場では専門用語が飛び交い、分からない言葉も多い。すかさずスマホで意味を調べたりするそうですが、「結構、緊張もして、帰ってぐったりすることも」。それでも「毎日が勉強」と、張り切って現場に臨んでいます。日々是好日のようです。

将来的には日本と台湾をつなぐ仕事ができれば最高

「今後は一級建築士の資格をとって設計にも挑戦していきます。日本には気密、断熱、耐震に優れた技術が充実しています。地震や湿気に耐えうる木造建築の可能性を台湾でも探求し、日本と台湾をつなぐ仕事ができれば最高」と極めて前向きです。
夢を膨らませつつ、当座の目標を聞くと、「経験。それにもっと力がほしいかな。」本音とも冗談ともとれる発言ですが、それもそうかもしれません。現場では重い材料を動かすこともたびたびあって、やはり女性の力では厳しいこともある。そう思って顔を向けると、「こればかりは男性に頼むしかありませんが、もっと鍛えます」とまぶしい笑顔が返ってきました。

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