スタッフコラム

京都で家を建てる(39)築95年の古民家を改修して「まちをつなぐ」- その1

改修前の築95年の古民家

改修前の築95年の古民家


【改修前】築95年を経た古民家

当コラム「京都で家を建てる」では、これまで主に新築の注文住宅を建てる際にまず最初に考えるべきことや、住まいづくりを進めていく中での留意点、あるいは守るべき条件などについてご紹介をしてきました。

今回から数回にわたっては少し趣を変え、中藏の住宅事業においてもうひとつの柱である、「住宅の改修」についてご紹介をしたいと思います。

平成30年の住宅・土地統計調査においては、京都市には10万6千戸の空き家があり、住宅総数に占める空き家の割合を指す「空き家率」は12.9%という調査結果が出ました。実に市内の10戸に1戸以上が空き家なわけです。

しかし、それらの中には、改修などの手を加えれば十分に住宅として機能するものがまだたくさんあります。また、歴史を経てきた建物には新築にはない風格と趣があり、それが京都の町並みの重要な要素になっているのも事実です。

そして、建築という仕事を通じて「ひと・まち・わざをつなぐ」ことを企業理念としている中藏も、古くなったから建て替えるではなく、町の景観を守りそこに育まれてきた文化を大切にするために、京町家や古民家の改修に積極的に取り組み、それらを次の世代に継承したいと考えています。

当コラムをご覧になり、京町家や古民家改修を前提にした住まいづくりに興味を持っていただける方がひとりでも多く増えればうれしいと考えたのも、今回は改修の実際について実例をご紹介する理由のひとつです。

その場の判断が求められる古民家改修

今回の改修の対象となるお宅は、昭和3年に建てられ築95年を経た、木造2階建て延べ床面積が約161.3平方メートル(約49坪)の古民家です。建築後は数世代に住み継がれ、その間に何度となく増築や改修が行われてきました。実際、私たちが現状調査にうかがった際には、居室は洋間に改修され、また窓もアルミサッシに交換されていました。

そして、このお宅を中古住宅として購入され、改修を当社に依頼された新しいオーナーの意向としては、もう一度、日本の伝統的な住まいの表情を取り戻し、また、周辺の落ち着いた景観にも馴染むたたずまいに戻して欲しいというものでした。


【改修前】2階西側の窓は建築当初の木製建具のままでした


【改修前】洋室にリフォームされていた1F


【改修前】建築当時のままだった小屋裏

ただし、厳密に95年前の姿に「復元」をするのではなく、いまの生活様式に対応した間取りや設備は整え、また、地震に対する安全性や外の暑さ寒さから室内を守る断熱仕様などは、現在の建築技術も同時に取り入れることも要望として盛り込まれました。

さて、古民家改修が新築と最も異なるのは「図面がない」ということです。新築は、何も無いところに図面通りのものを作っていくわけですが、古民家改修は「現物を見ながら考える」ことになります。特に、基礎や天井裏などは、「解体してみなければわからない」という不確定要素が常にあります。そのため、設計や施工の担当者にとって古民家改修は、「その場で即座に判断する力」が求められる現場でもあります。


【改修中】天井が撤去され構造体があらわれた古民家

新しくするだけでなく、逆に良いものは積極的に残す場合もあります。今回の場合は2階の丸太梁やゴロンボ、小屋裏の竹小舞です。ゴロンボとは、松丸太を直方体に製材せずそのまま使った化粧梁です。京町家では火袋(台所の上に造られた吹き抜け)などによく使われます。また、竹小舞とは土壁の下地となる割った竹を格子状に組んだもの。土を落として背面から光をあてると、格子の趣のある陰影を生み出してくれます。このような建築当時の職人の手の跡は、意匠として魅力的でもあり大切に残していこうと、設計担当とお客様が話し合いの結果、2階の天井は伏せず勾配天井としてあえて見せるように工夫しました。


【写真】勾配天井にして意匠として見せることにした丸太梁とゴロンボ、竹小舞

基礎は全面的に改修する

改修と聞くと、内装の更新といった表層的な工事を想像される方もいらっしゃるかもしれませんが、中藏の古民家改修の場合は、基礎部分からの見直しをすることがほとんどです。また、工事を計画する前段階として、専門の業者による「耐震診断」を行います。現状の基礎や柱・梁の状態を数値入力して地震に対する強さを診断し、必要な耐震補強を検討していきます。

昭和の前半以前に建てられた木造建物の基礎は「束石(つかいし)」といって、地面の上に並べた石の上に柱を立てているのが一般的です。これでは、地震によりズレてしまう可能性があり、また、地面の湿気の影響を直に受けるため柱が腐朽しやすくなります。さらにシロアリ侵入の危険性も高くなります。

そのようなリスクを回避するため、今回は現代の住宅建築と同様の鉄筋コンクリートによる「ベタ基礎」を全面に施工しました。改修の基礎の工事を行うには、既存の基礎を一旦撤去する必要があります。そのためには、既存の建物をジャッキで持ち上げて宙に浮かせながらの作業となるので、慎重さが求められます。


【基礎工事】建物をジャッキアップして基礎と土台をつくる


【基礎工事】基礎は断熱施工をおこない床暖房用のパイプも埋め込みます

最も手間がかかる歪みの修正

基礎と土台が完成したら、土台と柱を連結して建物躯体を調整していきます。既存の柱や梁の使えるものは再利用し、傷んだ部分は交換をしたり、必要に応じて補強も追加します。このとき、完成した姿もあらかじめイメージしておかなければ、違和感のある意匠となってしまうので要注意です。

古い建物の改修においていちばん大変なのが、実はこの段階です。年を経た木造建築は、木材が伸縮を繰り返したり、風雨の影響などにより形状が歪んでしまっているのがほとんどです。そのため、施工をしながらすべての柱や梁の垂直と水平を都度確認し、調整を繰り返していきます。この工程で手を抜くと、将来的に再び建物の歪みの原因となり、建物の寿命を縮めることになるので、時間をかけてでも念入りな作業が必要です。今回の場合、基礎のやり直しから建物躯体ができあがるまでにおよそ2ヶ月を要しました。


【柱や梁の修正】補強を加えながら建物の歪みを修正していきます

土壁も構造材になる

今回のコラムの最後に、少し意外な話を。工事を計画する段階で耐震診断をすると前述しましたが、その計算においては「土壁」も地震に対して建物を支えるパーツとして算入されています。地震の力を受けるとボロボロと崩れそうに感じる土壁ですが、意外にも剛性と粘り強さを併せ持った構造材として、古くから日本の建築物を支える役割を担ってきました。

そのような理由から、今回の改修においても土壁は復元します。ただし、完成時に意匠としてこの土壁が表に出ることは残念ながらありません。その理由は、現代の住宅づくりに準じた断熱と通気の施工を行うためです。それについて詳しくは、次回のコラムでご紹介いたします。


【土壁の改修】基礎や土台を設けるため部分的に撤去した土壁は、このあと復元されて構造材としての役割を担います