景観計画区域で建築を行う際、京都の町並み景観を守っていくための、外観のデザインについてのさまざまな規定があります。ざっくりではありますが、以下にご紹介する規定などです。
屋根
高さを微妙に変化させながら続く甍(いらか)の波は、風情ある京都の景観に独特のリズムを与えるものです。このため、屋根の形は勾配屋根を基本とすることにより、まとまりのある歴史都市・京都の景観の保全・再生を図られています。
このため、歴史遺産型や旧市街地美観区では、京町家などで多く見られる屋根の勾配(10分の3から10分の4.5まで)の、「切妻屋根」を基本とした屋根形状にしなければなりません。シンプルモダンなキューブ状の住宅を建築することはできないのです。
また、屋根は素材や色彩についても細かな規定があります。素材が日本瓦および平板瓦の場合は原則としていぶし銀色に決められています。また、銅板の場合は素材色(緑青色を含む)、銅板以外の金属板およびその他の屋根材は、原則として光沢のない濃いグレーや黒と決められています。
軒庇
通りに面して連なる京町家の深い軒庇は、町並みに視覚的な連続性と統一感を与えます。京都の通りならではの個性といえます。また、軒下の空間はオモテとウチを繋ぐ中間領域として、コミュニティ形成の潤滑油的役割を担ってきました。
このような景観やコミュニティでの機能をこれからも保存・継承していくために、地区によっては道路に面して軒庇を設置することが定められています。また、道路側にバルコニーを設ける場合は、軒庇とバルコニーという2つの突出する要素が外壁面に表れることになるため、「インナーバルコニー」にするなどのデザイン上の工夫が必要になってきます。
外壁等
外壁は、屋根と同じく町並みの景観を形成する大切な要素です。特に、歴史的な建築物が多くある地域においては、木や土壁など、自然の素材の質感を活かした外壁とすることが、落ち着いた町並み景観を保つことにつながっています。そのため、歴史遺産型や旧市街地型の美観地区で建築する場合、その外壁は、木材、漆喰、土塗壁、石材、レンガ等の自然素材と調和する形態意匠や色彩にすることが求められます。
「外壁の後退」についてもルールがあります。旧市街地型と歴史遺産の美観区では、軒先が連続する通りの景観を保全すると同時に、通りを歩く人への圧迫感を抑えるために、道路面する3階以上の外壁を1階の外壁より原則として90cm以上後退することが求められます。また、岸辺型美観地区ではの見晴らし景観を保全・形成するために、河川や道路に面する3階以上の外壁を1階の外壁より90cm以上後退する規定を設けられています。
駐車スペース等の修景
外壁に関する規定は、通りに面して置かれたエアコンの室外機や給湯器にも及びます。それらの機器を設置するにあたっては、建築物の外観意匠と調和した目隠しなどを行う必要があります。
また、建築物の前面に駐車スペースなどの空地を設ける場合は、周囲の景観と調和した門や塀等を道路沿いに設置しなければなりません。また,山ろく部や水辺に面した敷地においては、潤いのある良好な通り景観や岸辺景観を形成するために、道路や河川に面した空地部分に生垣や塀などを設ける必要があります。
太陽光発電パネルの設置
太陽発電装置は、ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)を実現し、低炭素社会の実現に寄与するするためのポイントとなる機器です。だからと言って、景観を無視して設置することは許されていません。歴史的遺産型美観地区や、歴史的景観保全修景地区では、公共用空地等から見える場合は設置不可となっています。また、それ以外の地区でも、パネルが甍の波に溶け込むように目立たない設置方法が求められています。
まとめ
以上のような規定を、「自分好みのデザインの自由度を削ぐ、堅苦しい締め付け」と受け取るか、「京都に暮らす一員として守るべき、まちの約束ごと」と受け取るかは人それぞれかと思います。ただ、これら規定のデザイン基準のほとんどは伝統的な日本建築の様式に基づくものであり、これらに則って建築をすることで、結果的に普遍的でいつまでも飽きのこない住宅となることは確かです。大切なのは、これらの規定に対して付け焼刃的に対応するのではなく、日本建築を様式をよく勉強することで自然と整合した建築デザインができる設計士と家づくりを進めることだと、私たちは考えます。