スタッフコラム

福祉と町づくり、それぞれの分野で共に地域を盛り上げていく仕事をしたい

リ・ブラン京都ラグゼ

社会福祉法人白百合会(楠りつこ理事長)が、京都市中京区三条会商店街近くの京町家を改修し、学習支援施設兼コミュニティカフェ「Lis Blanc Kyoto Luxe(リ・ブラン京都ラグゼ)」を開設されます。学習支援施設は地域の中学生を対象としており、さまざまな家庭事情を抱えた生徒を学生ボランティアらが支援します。学校のある日中はカフェ営業をする予定で、地域を結ぶ新しい拠点として注目されています。

白百合会では、障害を持つ人が通う授産施設を市内2か所で運営し、施設利用者の自立支援に力を注いでこられました。施設では焼き菓子や刺しゅう、織物など独自ブランドの開発、販売に積極的に取り組まれているほか、施設内で小学生を対象とした学習支援にも力を注いでいます。今回、中学生にも学習支援の輪を広げることを決め、その拠点として空き家となっていた京町家を利用されます。

その改修を中藏が手掛けることになり、昨年の8月に工事が始まり、いよいよオープンに向けて大詰めとなってきました。元々の建物が髄所に風情を感じる立派な京町家ですので、生徒たちにも伝統建築に触れて京町家の良さを肌で感じてもらえればと思います。中藏は建築を通して地域をつなぐ町づくりを目指しており、白百合会さんの支援活動に少しでも役立てるよう、努めてまいります。

今回は、施設開設に至った経過やその目的、将来の展望などについて、楠理事長にお話を伺いました。

リ・ブラン京都ラグゼ

本日はよろしくお願いします。今回改修された町家は理事長のご自宅だったとお聞きしております。

理事長:祖父母が住んでいた家で、わたしも幼いころに暮らしていました。祖母が亡くなってから空き家の状態でしたが、時々、短期的に親戚が使ったり、東日本大震災で一時東京を離れた人に無償で貸したりもしました。いつ建てられたかは不詳なのですが、大正時代に改修したとの記録もあり、おそらく明治時代ではないかと思います。今はわたしの個人所有になっていますが、京都市から京町家の指定も受けています。

白百合会では障害を持つ人を対象とした授産施設を市内で2か所運営されておられますね。

理事長:知的障害や身体障害をお持ちで、高校を卒業された方々を受け入れています。一般的に就職が難しい人を対象とする就労継続支援B型の施設です。京都市西京区の「リ・ブラン京都西京」と、今回、改修する町家からも近い「リ・ブラン京都中京」の2か所を拠点に就労を支援し、現在、25人の利用者さんが通所しています。

もともと、民間の共同作業所からスタートしたと聞いています。

理事長:昭和59年に父が始めました。ノートルダム小学校にあった障害者の育成学級が、「聖マリア養護学校」に改組し、その卒業生の親御さんたちで「衣笠共同作業所」を設立しました。当時、施設は国や自治体が運営するのが一般的で、規模も大型。町から離れたところも多く、もう少し自由で小回りの利く施設が必要と感じたのでしょうね。父が代表となり保護者の有志で施設をつくり、衣笠のほか、洛陽、西京にも作業所を広げました。その後、平成13年に社会福祉法人格を取得し授産施設に移行し、平成22年に西京を「リ・ブラン京都西京」、翌年には衣笠、洛陽を統合して「リ・ブラン京都中京」と名称変更し、B型施設として活動を続けています。

カフェ「リ・ブラン」

法人の本部にもなっている「リ・ブラン京都中京」は、町家風の外観ですね。

理事長:周りからの施設に対するフィルターを外したかったので、地域の人も利用しやすい建物や雰囲気というのは特に意識しています。授産施設は「ザ・施設」ってイメージがあるでしょう。ちょっと入りにくいというか関係者しか出入りしていないようなイメージがあって。でも、さまざまな人々が交じり合って地域福祉があると思うのです。そのため誰もが入りやすい施設にしなくてはと思って、カフェを併設しました。観光客のほか、近所の方もカフェを利用していただいていますが、木造のつくりで2階の音がどうしても下のカフェに響いてしまう。お客さんが何の音かと不思議がられて、2階の施設を覗くと利用者さんが仕事をしている。その姿を見て施設の活動や福祉への理解が深まっていく。カフェは本当にすごいツールだと思います。

2階が作業スペースになっているのですね。どんな商品をつくっていますか。

理事長:織物とか、キャンドル、刺しゅうなどクラフト系のデザインを楽しめるような商品が中心です。美術が好きな支援者さんらの指導のもと、一つ一つ手づくりで丁寧なモノづくりを心がけています。1点1点が世界に一つしかないということで、オートクチュールをもじって「京都クチュール」と命名しました。商標登録もとって、店頭やマルシェ等のイベントでも販売しています。

刺繍作品

【写真】京都クチュールの商品 祇園祭の山鉾をモチーフにした花ふきん

施設では就労訓練が終わってから学習支援を行っているのですか

理事長:そうです。就労訓練が終わって夕方から、地域の小学生を対象に学習支援しています。京都府の子ども居場所づくり事業の一環で、平成29年から定員10人で受け入れています。地域には複雑な事情を抱えた子どもたちもいます。ひとり親だったり、共働きだったり、また、経済的な理由で勉強がおろそかになる子どももいます。社会福祉法人として地域への恩返しと思って支援を続けてきました。

中学生まで支援を広げられる理由は。

理事長:いま、預かっている子どもたちが中学生になられると、中学生への支援は案外少なく、行き場がなくなるのではと思いました。塾に行かせるお金がないとか、生活にゆとりがないといった声を聞くと放っておけない気持ちになりました。今回行政から補助はありませんが、法人独自で学習支援することにしました。

その拠点として、昔住んでおられた京町家を使うことになったわけですね。

理事長:この家は母の誇りでした。元々お隣が京友禅の染屋さんで、そのショールームとして使われていたそうです。学習支援施設のほか、コミュニティカフェとして、町内のみなさんの集まりなどにも無償で使ってもらおうと思っています。いろんな方とつながり、巻き込みながら、子どもを遠くから、近くから見守っていただきながら、というふうな拠点にしていきたい。せっかくの京町家ですから、生徒にも町家の暮らしぶりを体感してもらいたいものです。

カフェ「リ・ブラン」

今回の改修では、京町家の再生を支援する(公財)京都市景観・まちづくりセンターの「京町家まちづくりファンド」の外観改修助成も利用されていますね。楠理事長が代々受け継がれてきた京町家を再生し、次世代につないでいく。まさに私たちが大切にしていることであり、そのお手伝いができたことを大変嬉しく思います。

理事長:中藏さんは町家に特化した技術を持ち、クオリティーの高い建物を仕上げられています。昔ながらの工務店のイメージを持っていましたが、中藏さんは第一線で活躍されている女性社員も多く、先を行く工務店さんというイメージに変わりました。京都の町家文化を大切にするという社風が家づくりに反映されていると思います。私たちは福祉の分野、中藏さんは町づくりの分野でそれぞれ頑張り、地域を盛り上げていく仕事をしていきたいものですね。

楠理事長、ありがとうございました。「Lis Blanc Kyoto Luxe」は今夏オープンの予定です。完成写真もあわせてまた当サイトでお知らせいたします。