国が主導し始めた二世帯住宅づくり
近年、住宅業界では二世帯住宅の話題をよく耳にするようになりました。大きな要因としては、大手ハウスメーカーのほとんどが二世帯住宅商品のラインナップを充実させ、また、そのプロモーションに力を入れていることが挙げられます。
なぜ、ここにきて各社が二世帯住宅商品の開発に力を入れたのでしょうか。背景の一つとして考えられるのが、2015年3月に国が「三世代同居・近居の促進」を打ち出したことです。少子化対策や、社会保障費(年金、医療、子育て支援など)の抑制に、三世代の同居や近居が効果があると考えられるためです。
また、住まいづくりの費用面から考えると、景気低迷による所得の減少や雇用不安が増える一方で、建築資材の値上げにより建築費用がアップし、単世帯では住まいづくりがしにくい環境になりつつあることも挙げられます。
特に、新たに土地を購入しての住まいづくりは、より予算を必要とするため、親世帯の家があった土地で建て替えを行い同居するスタイルも、都市部では多く見られます。
より具体的な二世帯住宅づくりのアドバイスを
以上のような流れを踏まえ、このコラムシリーズ「京都で家を建てる」では、2021年の11月と12月にも二世帯住宅づくりに触れました。11月は「二世帯住宅を考える〈プラン編〉」として、二世帯住宅のプランは、大きく分けると「完全分離型」「完全共用型」「部分共用型」の3タイプに分かれることと、その選び方について。12月は「二世帯住宅を考える〈お金編〉」として、建築資金や税金、二世帯住宅それぞれの負担についてなどです。それぞれのメリットとデメリットという対比形式でお伝えしました。
今回から数回にわたるコラムは、その続編である〈実践編〉として、二世帯住宅づくりの特に初期の段階で頭に入れておいていただきたいことをお伝えしていきたいと考えます。
二世帯住宅のメリットは確かに多いが
以前のコラムの繰り返しになりますが、二世帯住宅づくりをする主な理由は、親世帯と子世帯の利害が一致することにあります。
年老いた夫婦二人だけ、あるいは独居への漠然とした不安がある親世帯の考えと、家事や育児など毎日の生活面での協力や、建築時の資金的援助が期待できる子世帯の考えです。また、何かあったときにも、ふたつの世帯で協力をすることができます。
このように、一見するとメリットだらけの二世帯住宅ですが、現実にはうまくいっていないケースもあるようです。しかし、いったん建ててしまうと解消するのは難しいのが二世帯住宅。のちのち後悔しない二世帯住宅づくりはどうすればよいか。今回は、その一回目として、そもそも二世帯住宅に向く人、あるいは向かない人について、考えてみたいと思います。
1. ある程度の包容力を備えているか?
二世帯住宅では、異なる文化を背景にしてきた家族が一つの空間で生活することになります。料理の作り方や掃除・洗濯の手順、生活時間帯や生活リズムなど、あげればキリがありません。異なる文化が接近すれば多かれ少なかれ摩擦が生じます。その摩擦を許容でき、仲良くできるかが、二世帯住宅の成否のポイントです。
また、なかなか許容しづらいのが衛生概念や整理整頓に対する考え方の違いです。二世帯住宅を考え始めた段階でそれぞれの家を見学し、水回りの共用が可能かどうかなどを判断しておくことをおすすめします。自分が神経質とお考えの方は、特に重要なポイントです。
さらに、世代によって成長してきた時代背景や価値観が異なります。家に対する古い価値観にこだわりすぎたり男尊女卑の考えが強すぎる、あるいは、日頃から人の悪口を言いがちな性格なども、二世帯住宅の関係をギクシャクさせる原因になります。
2. 適度な距離感を保てるか?
一緒に暮らしだすと、お互いのことがどうしても気になります。双方の家族のプライバシーに踏み込みすぎると所詮は他人、ストレスを与えることになります。しかし、「ここまではOKだけど、ここから先はNG」は人によって異なるもの。その間合いを測れるかも、二世帯暮らしにとっては大切です。
また、「血のつながった子どもだから、多少の口出しは大丈夫」と親世帯は考えていても、子世帯が同じように思ってもらえるとは限りません。息子家族と同居する場合、息子は妻と孫のものです。自分の子どもとして過剰に干渉しないガマンができるかどうかが大事です。逆に、子世帯の夫が過度に親世帯の肩を持つのも考えものです。親子とは言え、二世帯暮らしでは親子だけの時とは異なる距離感が必要なのです。
さらに、孫かわいさに親世帯が育て方や教育に口出しをしすぎるのは、子世帯との溝を深めることになりますので注意が必要です。
3. 義理のきょうだいや親戚は大丈夫?
一緒に暮らす訳ではありませんが、義理のきょうだいや親戚が頻繁に親世帯を訪ねてきたり、親戚が口出し、手出しをしないことも大切です。過剰な干渉により、家族の暮らしにわだかまりが生じる可能性があります。
そして、次回以降のコラムで詳しく述べますが、将来の相続のことも想定しておくことが大切です。相続の段階で揉めるような可能性がある場合は、親の土地や建物には手を触れないことが賢明な場合もあります。
4. 子世帯の妻がイニシアチブをとれるか
ここまでのまとめになります。要は、細かなデメリットやストレスの種があったとしても、子世帯の妻が家全体を仕切り、まとめられると考えられるのであれば、二世帯住宅づくりに踏み切って良いと思います。逆に、二つの世帯で主導権争いになったり、親世帯が子世帯に口出しをしすぎることが想定されるのであれば、お互いの家族の幸せのための熟考が必要です。
また、子世帯の夫がイニシアチブをとれば大丈夫と考えておられる方がいるかもしれません。しかし、家事や子どもの教育への関わりは妻の比率が圧倒的に高いのが一般的です。夫ができることは限られていると言わざるを得ません。
二世帯住宅を解消するのは難しい。また、当然であるが家族の関係を変えることはできない。そして、人の性格や培ってきた文化も変えることは難しい。そのうちになんとかなるとは考えないほうが良いかもしれません。
シビアすぎるようですが、幸せな二世住宅づくりするには、慎重すぎるほどの検討を重ねてください。メリットの部分だけを見て二世帯住宅を建てると、後から思いもよらないストレスが押し寄せる可能性があります。
頭の中でしっかりシミュレーションする。また、夫婦間や世帯間で忌憚なく話し合って慎重にすすめることが大切です。
中藏の勉強会にご参加ください
中藏はこれまで多くの二世帯住宅づくりに携わってきた経験から、お客様それぞれが抱える課題に対して具体的にアドバイスができると考えております。今後、二世帯住宅づくりをテーマにした勉強会も計画中です。みなさまにとってためになる情報をお伝えしていく予定ですので、ぜひご参加ください。