ロングライフ住宅の目的はふたつ
ここまで3回に分けてロングライフ住宅づくりのポイントについて、心理的・物理的耐久性の点からお伝えしてきました。
繰り返しになりますが、ロングライフ住宅が社会に求められるようになった背景には、2006年に作成された住生活基本計画があります。ここにおいて、これまでの「作っては壊す」社会から、「いいものを作って、きちんと手入れして、長く大切に使う」住宅づくりへと移行すべきことが提唱されました。
さらに、最新の住生活基本計画が2021年3月に閣議決定されましたが、ここでも「脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成」が目標のひとつとして掲げられています。
それでは、ロングライフ住宅化していかなければならない「そもそも」の理由は何でしょう? ひとつはこれからの地球環境を考えた視点、もうひとつは、これらかの日本の経済や社会を考えた視点からの提唱です。
以下、この2つについて簡単にご紹介します。
ロングライフ化してゴミや二酸化炭素を減らす
まず「地球環境を考えた視点」についてご紹介します。建物解体では凄まじい量のゴミが出ます。さらに、外壁のサイディング材やビニールクロスなどの工業製品はリサイクルができず、産業廃棄物として処分しなければなりません。これらの輸送や処分時には二酸化炭素が排出されることになります。しかし、住宅が長持ちすれば必然的に取り壊される住宅は少なくなります。それにより、排出され処分されるゴミの量も少なくなります。
また、住宅に「古美る」素材である木材を多用するのも、環境にやさしい住宅づくりです。木は光合成により空気中の二酸化炭素を吸収して酸素を放出します。そして、成長過程において多くの二酸化炭素を吸収した機能は木材となった後も炭素を固定し続けます。
さらに、解体され建築材としての役割を終えた木材は、その後も木質ボード、紙、さらには燃料(バイオマスエネルギー)といったように、形を変えながら何度も再利用され、最終的には微生物の働きなどにより、土に還すことも可能です。
このように、住宅をロングライフ化し、さらに木を多用することは、地球環境にやさしい家づくりと言えるのです。
ロングライフ化して住宅を資産にする
次に、ロングライフ住宅を、「日本の経済や社会の点から考えた」視点についてです。
日本の農村部においては、住宅は代々引き継ぐ資産として位置付けられていました。これに対し、都市部の特に1950年代からの高度成長期に大量供給された住宅には、資産という考えは希薄でした。
それを後押ししたのが日本の住宅市場に関する政策です。ある時は住宅難を解消するため、またある時は景気対策など、時期によって名目は異なりつつも、ずっと新築住宅を作り続けることを後押ししてきました。さらに日本独自の仕組みである「ハウスメーカー」が企画型住宅商品の広告を大量出稿して消費者の購買意欲を煽り、古い住宅は壊し住宅は新築するものという「新築神話」が次第に築かれました。
この流れは、住宅の着工が世帯数の増加を上回るペースで増え続け、結果として住宅性能の低い安普請の空き家が大量に発生する事態となりました。また、新築住宅も30年ほどで取り壊されるため、消費者がこれまで住宅に対して支払っていたお金が社会に蓄積されず、いつまでたっても社会にゆとりが生まれないということにもなりました。
経済活動において、一回限りの買い切りビジネスを「フロー型ビジネス」、それに対し、何度も繰り返し利用できる仕組みやインフラを作り、継続して対価を得るビジネスを「ストック型ビジネス」と呼びます。日本の住宅市場は、まさに「フロー型」だったのです。
しかし現在、社会全体が「ストック型」にシフトしつつあります。最もわかりやすいのが、映像や音楽、パソコンアプリのサブスクリプションサービスでしょう。また、都市部では自動車のサブスクも普及しつつあります。
理由は、少子高齢化などの人口構造の変化、若い世代の価値観の変化や多様化、経済成長の鈍化、環境や社会問題などさまざまです。遅かれ早かれ住宅もサブスク、つまり「ストック型」に移行することになるでしょう。そして、その時に必要なのは、安普請な住宅ではなく、社会のインフラとして機能するロングライフ住宅なのです。
ロングライフ住宅のデザインとは
前回までのコラムで、ロングライフ住宅に必要な性能や仕様、ストレスフリーなど、物理的・心理的耐久性について述べてきました。今回はさらにデザインについて考えます。社会のインフラとして、多くの人が「住みたい」と思う住宅はどのようなものかということです。
その答えはいく通りもあるかと思いますが、私たちは「普遍性」という言葉を大切にしたいと考えます。いつの時代を切り取ったとしても、そこにあることに違和感を覚えないようなたたずまいです。
そのヒントのひとつと言える住宅が「聴竹居」です。建築家・藤井厚二が、1928年に京都府大山崎町に建てた自邸で、日本の気候風土と西洋的な空間構成を融合させた近代住宅建築の名作と言われています。また、意匠だけでなく、今で言うパッシブデザインが考慮されている「実験住宅」である点も注目される建築です。
「聴竹居」以外にも、普遍性を備えた住宅は京都、そして関西に数多く存在しています。私たちはこれらに埋め込まれた普遍性のエッセンスを汲み取り、自らの設計・施工技術に反映させていくことにより、ストック型に向かう社会に対応した住まいづくりをおこなっていきたいと考えています。
なお、「聴竹居」は完全予約制で見学が可能です。これから家づくりをと考えておられる方は、ぜひ一度ご覧になられることをおすすめします。