文:下尾芳樹
教師は自分の道ではないと思った
かつて日焼けは「男の勲章」と言われた時代もありましたが、最近では男性用の日焼け止めが発売されるなどお肌に敏感な男性も多いようです。中藏の男性スタッフを見渡して、最も日焼けしているのが松井清貴さんです。まさに現場監督にふさわしい面構えと思うのですが、ご本人は「もともと地が黒いので。それに仕事場が外ですから…」とまったく気にする様子もなく、毎日、駆けずり回っています。
中藏に入社して10年目の35歳。これからさらに脂が乗って中藏を引っ張る中心的人物の一人ですが、意外にも「当初は中学か高校の社会科の教師になろうと思っていました」と言います。京都市内の高校から佛教大学の文学部人文学科に進み、教員免許も取得、教育実習で生徒とも触れ合ったのですが、「どうも違う。自分の道ではない」。突然、そう思ったそうです。それから建築関係の仕事に就こうと、南丹市園部町の建築専門学校に入り直して、3年間ひたすら建築を学びました。「父親が建築関係の仕事をしていて影響を受けたのかもしれません。厳しい業界だからやめとけと反対されたのですが、どんな仕事も同じだし、思い切って飛び込みました」。
最若手として必死に働き続け気付けば指導する側に
中藏は専門学校の求人で知り、そのまま採用されました。この間、現場一筋に邁進し、気がつけば後輩を指導する立場に。家人によると、「思い込んだら一途なところがあります。建物を手掛ける時にお施主さんの思い入れが強ければ強いほど、それにつられて仕事に力が入るタイプ」だそうです。現場への思い入れが強いようで、顔の日焼けにも何となくつながるような気がします。
建築関係の資格取得にも積極的で、専門学校時代に取得した2級建築士のほか、その後、1級建築施工管理技士、最近では高気密・高断熱施工の普及に合わせて、寒冷地住宅のBIS(断熱施工技術者)認定の資格を取りました。指折り数えてみると、これまでにざっと20種の資格を持ち、勉強家の一面をのぞかせます。「現場監督と言っても、特殊な技能があるわけではありません。職人さんのような技能もなく、極端なことを言うと犬小屋一つつくれません」と謙遜しつつ、日進月歩で進む技術革新に備えているように見えます。
BIS認定の取得も、本来、北海道など寒冷地域に必要な資格で、京都を中心に仕事をする松井さんにとって、どうしても必要な資格ではありません。「BISは特に必要な資格ではありませんが、より厳しい断熱の施工技術を知っておこうと思って…」。総合力が試される現場監督の世界をさりげなく説明してくれました。
よく焼けた肌が表す現場への一途な想い
俳句の世界でも夏の季語として日焼けをテーマにした句が詠まれます。ネット上で探してみると、こんな句がありました。「日焼して 海の匂ひの する人等」(野崎加栄)。海の香りを運んでくるたくましい人々を想像できますが、これを少しもじって「海の匂ひの」を「無垢の匂ひの」にすると、松井さんのイメージにならないでしょうか。無垢とは建築に使われる無垢材で、スギやヒノキと向き合う松井さんの姿が想像できます。