建築事例
蔵や南聖町
本建物は、十数年前までは電気部品を製造する工場として稼働していたようで、何度かの増改築を経て東へ3棟をつないだような建物形状で、延床面積は約100坪もありました。間口は4間で、奥行は西棟5間、中棟5間、東棟3間、それぞ れの間には界壁は少なく、内部は一体的な空間となっており、高度経済成長期に電気部品製造の仕事が 拡大するのにあわせて、工場も拡大していったようです。今回は、通りに面した西棟をリノベーションし、東棟を簡易なリフォームで錫工房のアトリエ(清課堂)に、中棟は解体し両棟を挟むニワとして計画。西棟の西面が正面となる外観は、1階は人造大理石研ぎ出しの腰壁付きの2間半幅の窓に金属製 の縦格子が嵌められ、2階は両端に戸袋があり、1間半幅と1間幅の木枠ガラス窓と木製手摺が設けられ、壁はモルタル塗で大屋根軒裏まで覆われていました。数か月前までは住まいとして利用されていましたが、空き家であった本建物は極力その当時の意匠を残した形で、町家旅館として生まれ変わりました。
木製建具の内側に樹脂サッシを納め、外観は改修前と変わらないように、機能性を向上するような計画をしました。
木製建具は改修前のまま、ゆらぎのあるレトロなガラスが特徴的です。
玄関に入ると吹き抜けのある土間空間。この土間全体に温水床暖房が入っており、土間に蓄熱された熱で建物全体を温めます。
和室の中央には掘りごたつ。土間に蓄熱された熱が足元を暖めます。
雪見障子を通して、中庭をみる。
床の壁は荒く仕上げたオリジナルの左官壁。ひかりが当たると豊かな表情がみえます。
すさが多く入った左官壁
壁は場所によって、塗り方を変えているため、微妙に表情が違います。
錫の作品(清課堂)
中庭
立体感のある中庭。季節により、視線が移動するように設計されています。
部屋全体を照らす照明でなく、空間に奥行きが出るように、照らす位置を計画しています。
内障子からの柔らかなひかりは落ち着きを与えてくれます。
昔の舞良戸を再利用。舞良戸とは表面に舞良子という桟を横あるいは縦に取り付けた板戸の事です。シンプルな横のデザインと、木そのもの表情を活かした現代にも通ずるデザインです。
造付けのオリジナルキッチン
水屋は昔使われていたものを再利用。存在感があり、和の空間になじみます。
元々、通り庭の神棚に飾られていた布袋さん。伏見人形と呼ばれる人形を、小さな人形から徐々に大きな人形を7年かけて揃える風習です。良くないことがあれば、最初からやり直して揃えるそうです。商売繁盛と火除けの役割があります。
造付けのオリジナル洗面台。
浴槽の内側には国産の天然石、十和田石を採用。水に濡れると青く色づき、見た目にも癒やされます。滑りにくく保温性も高く、機能的にも優れています。
浴室から中庭をみる
階段は登りやすいように新しく造り替え、壁にも断熱材を新たに入れて温熱環境を向上しています。
2階トイレ
2階床の間は壁の塗り替えをしたことで、再び美しい表情をみせます。
青銅の作品(清課堂)
青銅の作品(清課堂)
天井は撤去し、構造をあらわしにしてあります。
窓際の床にはスリットからは土間に蓄熱された暖かい空気が流れ、建物全体を温めます。
夜の一階和室
夜の外観