スタッフコラム

京都で家を建てる(34)二世帯住宅づくり実践編〈まず最初に考えること(1)将来の相続〉

二世帯住宅イメージ

「相続はずっと先のこと」ではない

二世帯住宅は一般的な住宅に比べて建築面積が大きくなるため、建築コストも高くなります。そのため、親が頭金を出し、子世帯がローンを組むなど、「親と子の二世帯でお金を出し合って建てよう」と考えるのが一般的です。いわゆる、二世帯住宅を「共有登記」にしたり「区分登記」にすることです。

なぜ、共有登記や区分登記にするのでしょう? 子世帯の単独名義にしようとすると、親が出した頭金は「贈与」とみなされ、贈与税の対象となってしまうからです。その点、共有や区分登記にはそのようなことが起こりません。いわゆる節税対策が理由のひとつです(これ以外にも、節税効果がありますが、それについては次回のコラムでご紹介します)。

これを聞くとメリットが多そうに思える二世帯住宅の共有登記や区分登記ですが、将来の相続時に影響してくることも知っておく必要があります。親の相続の際に親の持ち分をどうするかをめぐり、子どもらの間で争いが生じたり、多額の相続税を払うことになる可能性があるのです。

「相続はずっと先のこと」と考えていると、将来、思わぬトラブルを抱え込むリスクがあります。きょうだい間の相続争いにならないために、二世帯住宅の名義については、最初の段階で考えておかなければならないことなのです。

実際に想定されるトラブル

わかりやすく共有登記で具体例を示しながら考えてみましょう。長男と長女の二人きょうだいがいるとします。その長男が、親世帯が以前から住んでいた家を取り壊し、親世帯と子世帯でお金を出し合って新しい二世帯住宅を建て、共有登記します。将来、親世帯が亡くなったときには、長男世帯が引き続きその家に居住していこうと考えるのが、一般的だと思います。

同居イメージ

このような場合、もし親世帯が亡くなって相続を考えるとき、同居していた長男が、親の持分や土地をすべて相続しようとすると、長女が相続する土地や建物はないということになってしまいます。しかし、遺産分割では、土地と建物の権利はきょうだい全員に等分が法律での前提となっていますから、長女側が不満を持つのは当然の成り行きです。

長男としては親の面倒をずっとみてきた対価がこの家であると主張をするかもしれません。しかし、長女側からすれば、長男世帯は親世帯と同居することにより、住居費や生活費の出費を抑えることができ、また、子どもの面倒を親世帯がみてくれたことで、育児の負担が軽くなった点も見過ごせません。長男の主張に対して、長女は簡単に首を縦に振ることはできません。

現実的な対処法は?

法律に則るならば、親の持分部分を長男と長女で等分することになります。二世帯住宅は、今度はきょうだい二人での共有となります。長男世帯はこれまでと同じく住み続けることはできますが、その利用にあたっては、長女の持分部分に対する使用料などについて納得のいく話し合いが必要となります。

また、さらに将来、長男と長女の持分が、さらにその子どもらに相続されることを考えると、相続人はどんどん増えることになります。長男と長女の二人で共有し続けることは、あまり現実的な方法とは言えないかもしれません。

ではどうするのが良いか? 長女の不公平感を解消するためには、長女の相続分にも配慮した形で遺産分割方法を話し合うことが有効な手段となります。不動産以外に、現金や預貯金などの遺産があれば、二世帯住宅の相続分に該当する現金や預貯金を長女に渡すことで解決できるかもしれません。しかし、親に二世帯住宅の持分以外に遺産がほとんどないというケースでは、その方法はとれません。

こうなってくると、長男が親世帯の持分をすべて取得し、価格賠償として長女に相応額の金銭を支払うことになりますが、その金額が大きく、長男世帯が価格賠償をするだけの金銭を捻出できない場合には、二世帯住宅を売却して、その代金を長男と長女で分けることになります。当然、土地も建物も他人の手に渡ってしまいますから、長男世帯は新しい家を手に入れなければなりません。

このような状況は決して特別ではありません。現実的には、長男世帯が生活している家を追い出してまで土地や家を売却するほど強硬な手段に出ることは少ないかもしれませんが、きょうだいの関係にしこりを残すことは否めません。

このような事態に陥らないためには

そもそも、事の発端は、二世帯住宅を建てた時に親世帯と子世帯の「共有」にしたことにあります。

確かに、出資比率に応じた共有割合の共有登記にすることで、親が頭金を出して子世帯名義の家にする場合と異なり贈与税の対象にはなりません。また、住宅ローン控除や不動産取得税の控除も親世帯、子世帯それぞれが利用することができるため、単独登記に比べて節税の効果といったメリットがあります。

しかし、共有の不動産は前述したように、相続時に特有の問題が生じるおそれがあります。もし共有登記にするのであれば、相続時に起こりうるトラブルを十分に想定し、それが発生しないよう、親の生前に相続人同士で十分に話し合いをしておくことが大切です。

また、それでもトラブルの可能性を感じるのであれば、親の生前に持分を贈与してもらい、子世帯の単独名義にしておくことも考えられます。もちろん、その際に同居していない子には、二世帯住宅以外の資産を親から生前贈与し、不公平感を和らげてもらうことも必要です。

区分所有についてはさらに注意も

「共有登記」以外に二世帯住宅を複数人で所有する形態のもうひとつが「区分登記」です。建物内で行き来ができる非分離型であっても、一定の建築要件を満たせば区分所有登記は可能です。

共有登記と区分登記の違いは、登記するのが1つなのか、2つなのかの違いです。区分登記は、二世帯住宅を別々の2戸とみなして登記します。そのため、分割して売買することも可能です。

区分登記にすると、親子それぞれで住宅ローン控除の適用を受けられるメリットなどがあります。しかし、いざ相続となったときに区分登記がされていると、前述のきょうだい間のトラブル以外に、「小規模宅地の特例」を受けられなくなるというデメリットもあります。

「小規模宅地等の特例」とは、親世帯と子世帯が同じ敷地内(上限330m²)で、同居あるいは生計を共にしていたことを条件に、相続された土地の評価額を最大80%減額できる制度です。

例えば相続時に 300m²の自宅の土地が5,000万円(評価額)と算出された場合、小規模宅地等の特例の適用がなしの場合とありの場合の課税価格は以下のようになります。
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・適用なし:5,000万円が課税価格
・適用あり:(5,000万円-4,000万円=)1,000万円が課税価格
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このように相続税が大きく変わる可能性があります。そのため、どこかのタイミングで区分所有から、親の単独名義か、共有名義に変更することが必要です。親が亡くなってしまってからでは手遅れですので、できれば二世帯住宅づくりを考える時点で、その流れを織り込んでおくことがベストです。

二世帯住宅はまず名義をどうするか考える

二世帯住宅の名義には、親の名義にする、子の名義にする以外に、親子で共有登記する、あるいは区分登記して、親と子のそれぞれが名義を持つことも可能です。ただし、いずれを選ぶかは将来の相続まで想定し、相続争いや思わぬ課税を回避できるような名義を考えておきましょう。

このような点について、中藏はこれまで多くの二世帯住宅づくりをお手伝いしてきた経験から、最善の方法をアドバイスをすることができます。「親と一緒に暮らす二世帯住宅を」とお考えになられたら、まずは中藏にご相談ください。