前回のブログでは、ロングライフな住宅づくりについて主にメンタル面である「ストレスなく暮らせる家にすること」についてご紹介しました。今回は、「物理的な耐久性」について考えてみたいと思います。
地震に対する強さは必須
住宅の耐久性を考えるとき、まず頭に浮かぶのが「地震が来ても倒壊しない家」だと思います。では、そのためにどうすれば良いでしょうか?目安となるのは、国で定められた「耐震等級」という基準です。
耐震等級は、三段階に分けられます。等級1は建築基準法で定められた最低限の耐震性能であるのに対し、等級3は、等級1の1.5倍の強さの地震にも耐えられる耐震性能です。
実際の強さはどうでしょう。2016年4月に発生した「熊本地震」は、震度7の地震が2回続けて起きるという過去に例のない地震でした。これにより、8,160戸の住宅が倒壊(全壊)しました。その中にあって、耐震等級が最高等級3と認定された住宅の倒壊はゼロでした。また、損傷した住宅は16棟中2棟という調査結果でした。つまり、耐震等級3の家づくりをすれば、かなりの確率で地震から命や財産を守ることができると考えられます。
「耐震等級」は、実は2通りある
ただし、ここで注意しないといけないのが、耐震等級の計算方法です。同じ最高等級3であっても、長期優良住宅や住宅性能評価に使われる「性能表示計算」によるものと、「許容応力度計算」によるものがあります。そして、計算方法の違いによって強度の差があるということです。
そもそも同じ等級3でありながら強度の違いがあるというのはとても不思議な話です。その理由は、許容応力度計算があまりにも複雑なため、この計算ができない小さな建設会社向けに簡易的な計算方法である性能表示計算も認めているという、業界の事情によるものです。
当然、許容応力度計算の方が精度が高いのは明白です。地震に対して確実に強さを発揮する住まいづくりをご希望されるのであれば、設計者に「耐震等級は許容応力度計算によるものですか?」と質問してみるもの良いかもしれません。
もうひとつの天敵はシロアリと木材腐朽菌
地震が突然襲ってくるものだとすれば、知らず知らずに建物の耐久性を侵食するのが、シロアリと木材腐朽菌です。国土交通省による調査では、築20〜30年の住宅のうち、シロアリの被害を受けた建物は20〜30%という結果が出ています。いつの間にかどこからか侵入され、食い荒らされている建物は意外に多いのです。
この被害を予防するには、建築時に防蟻処理を行うことと、その後の定期的な点検と防蟻処理の再施工が不可欠です。また、防蟻処理剤は時間が経つとどうしても効果が薄れてしまうため、定期的にやり直すことが不可欠なのです。そのため、数十年にわたりシロアリの被害を防ぐためには、防蟻処理とその後の点検スケジュールが明確な住宅会社を選ぶのが必須といえます。
一方、木材腐朽菌はシロアリに比べると地味な印象ですが、ジワジワと建物を老朽化に追い込む厄介な存在です。
木材腐朽菌はキノコの仲間
カビと混同されがちな木材腐朽菌ですが、実はキノコの仲間です。カビは木材などの表面にだけに生え、木材の劣化には影響しない(見た目は汚くなりますが)のに対し、木材腐朽菌は木材の主成分とされるセルロースやヘミセルロースなどを分解し、柱や梁、土台をボロボロにしてしまいます。
木材腐朽菌は、もともと自然界に存在し、枯れた倒木などを分解して土に還す大切な役割を担っています。しかし、木材腐朽菌が我が家で繁殖をしてしまうと、たちまち厄介な存在になるのです。
ただし、木材であれば木材腐朽菌がどこでも繁殖するわけではありません。いくつかの条件が揃う必要があります。それは「湿度が85%以上」「木材の含水率が20%以上」「温度が20℃〜30℃前後」であることです。そして、この環境はシロアリも好む環境です。つまり、条件が揃ってしまうと木材腐朽菌とシロアリの両方から被害を受けてしまう可能性もあります。これは、たまったものではありません。
被害を防ぐには浸水と湿気を防ぐ
逆に言えば、木材腐朽菌が好む環境の条件を作らなければ菌の繁殖を防ぐことができます。つまり、木材が水に濡れるのを防ぐことと、湿気が溜まらないようにすることです。
木材が水に濡れないようにするためには、雨水などの浸水を防ぐことです。住宅は築年数が経過すると木材の収縮や素材の劣化によりすき間が生じ、次第に浸水しやすくなります。そのようなときにも、できるだけ浸水しないような「建築的な対策」を行なっておくことが大切です。
「建築的な対策」を具体的に紹介しだすとキリがありませんが、簡単に言えば「水が上から下に流れることにあらがった設計をしないこと」と「建物の劣化を前提にすること」です。高温多湿の日本において雨が降るのを防ぐことはできません。そのため、もし雨に濡れても水キレがよく、また、そもそも水の侵入できるすき間を極力つくらないことが大切です。デザイン的に凝った、デコボコがやたらと多い建物などは、浸水のリスクがグンと上がることになります。
一方、湿気を防ぐには計画された換気が有効です。湿った空気を強制的に排出し、新鮮な空気を送り込むことで、湿度を下げることができます。ただし、換気の効率が十分に発揮されるためには住宅の高気密化が大切です。いくら高価な換気システムを導入しても、建物がすき間だらけでは正しい換気が行われないからです。高気密な家づくりと計画的な換気は、住まう人の健康だけでなく、住宅の寿命にも関係してくるのです。
結局は地域特性に適した家づくり
ここまで述べてきたことをまとめましょう。ロングライフな住宅づくりのポイントは、結局、地震国である日本の実情に合わせた耐震性能の高い家であることと、高温多湿な気候においてもシロアリや木材腐朽菌などを発生させないことに尽きます。そして、京都に長く存在する木造住宅もまた、古来からの知恵によりこれらのポイントが埋め込まれているのです。
住宅の耐久性を高めるための新しい工法や建築材料について、日々、情報を収集することは住宅会社として当然です。その一方で、古来からの知恵に埋め込まれた地域特性に適した家づくりを学ぶこともまた大切だと私たちは考えています。そして、その学びを、自分たちの設計・施工技術に反映していきたいと考えています。