前回のコラムでは、「小さな家の間取りを考えてみる」として、小さな家を考える時には、一般的な広さの家づくりとは異なった空間の使い方や優先順位の付け方が必要であることをご紹介しました。また、「家」に対する固定概念からいったん離れてみることの大切さについてもお伝えしました。
今回のコラムでは、小さな家だからこそ注意したい快適に暮らすためのポイント、また、小さな家だからこそ実現可能な快適さについていくつかご紹介したいと思います。
最大のポイントは狭さを感じさせないこと
「小さな家」と「狭い家」は、同じ意味のように聞こえますが、少しニュアンスが異なると私たちは考えます。「小さな家」は、物理的に小さい家。例えば建築面積や延床面積などの数値が、一般的な住宅よりも小さい家を指します。
これに対して「狭い家」とは、室内に入った際に感じる、個々の人の感覚次第だと考えます。そのため、Aさんは「狭い」と感じても、Bさんは「そうは思わない」といった、個人差が生じることも考えられます。また、同じ人でも入居直後は「狭いかな?」と感じても、日々暮らし、その空間に慣れていくことで狭さを感じなくなることがあるかもしれません。つまり、「小さな家」であっても「狭い家」とは感じない、感じさせない場合があるのです。
小さな家づくりを得意とされる建築家の伊礼智さんは、そのような「小さな家でも狭さを感じさせない」設計のテクニックをたくさんお持ちです。それらのテクニックのうちのいくつかをご紹介させていただきます。
◎階高を低くする
住宅の階高(床から天井までの高さ)は、2300mmから2400mmが標準的です。これを2100から2250mmほどに抑えることで、狭さを感じなくなるというのです。「天井が低くなると窮屈に感じるのでは?」と思うところですが、人は同じ床面積なら天井が低いほうが平面的には広く感じるように「錯覚」するのです。
【階高を低くした事例】天井の高さを一般的な高さより少し低い2250ミリにしています。タテ×ヨコの比率が変わり室内の狭さを感じにくくなります。
◎視線の“抜け”をつくる
上記の〈階高を低くする〉とセットでのテクニックです。視覚的な工夫をすることにより、狭さを感じさせないようにすることができます。視覚的な工夫とは、部屋の対角線上に窓や吹き抜けを配置して、視線の“抜け”をつくるということです。視線の行き止まりができないことにより、空間の広がりを感じることができるのです。
【視線の抜けの事例】カウンター上部に設けた室内窓越しに吹き抜け空間が広がることにより、空間の広がりを感じさせます。
◎灯りの重心を低くする
あえて天井に照明を付けないテクニックです。天井に照明がないことで、夜間は天井がどこにあるかがはっきりとわからず、したがって天井の低さも感じません。代わりに、照明はペンダントライトやブラケット、フロアスタンドをポイントごとに配置することで、室内に陰影による奥行き感が生まれます。
【灯りの重心が低い事例】天井の高さを変えるのが困難な京町家のリノベーションでは、照明を低い位置に設置して低い天井を意識させないようにしています。
◎家具はコンパクトで低めのものを
室内に置くテーブルやチェア、ソファなどの家具類は、コンパクトで座面などが少し低めのものを選ぶことにより、低めの天井の空間にうまく収まります。それに合わせて、コンセントや照明のスイッチ類も低い位置に設置します。逆に引き戸やドアなどの建具は天井に届くまで延ばすことで、天井の低さを感じさせません。
【建具による工夫の事例】サッシや障子を天井まで延ばすことにより、天井の低さを感じさせません。
外からの視線を遮ることも重要
広大な敷地の中に家を建てるのであれば別ですが、小さな家を建てる(建てなければならない)最も多い理由は、敷地の広さに制限があることでしょう。敷地が狭いということは、両側を隣家に挟まれていたり、敷地のすぐ前を道路が通っていたり、市街地においては、道路を挟んだ向こう側に高層のマンションがそびえている場合があります。
リビングルームの窓のすぐ前を通行人が行ったり来たりするのは、落ち着いた暮らしからはほど遠いものです。また、隣家や向かいのマンションから覗かれるのでは?と気にする暮らしも避けたいものです。
そのような気遣いから解放させてくれるのが、「目隠し壁」です。家を含めた敷地を緩やかに囲む壁を設けるなどして、外からの視線を遮る工夫です。京都市の中心部などでは、特に効果的な設計ではないでしょうか。ただし、大切なのは「視線は遮るが、自然光や風は遮らないこと」です。設計段階でコンピュータによるシミュレーションなどを行なわないと、一日中薄暗かったり、風通しの悪い家になる可能性があります。壁の設け方については、経験豊富な設計士と十分な検討を行ってください。
敷地を緩やかに囲む壁にはもうひとつの効用があります。それは「庭も室内に取り込むことができること」です。壁に囲まれた庭は、坪庭のようなプライベートの屋外空間です。この空間とリビングルームがひとつにつながることで、天気の良い日などはリビングの拡張空間として使うこともできます。そのために大切なことは、フルオープンできる、天井まで高さのある掃き出し窓を使うことです。できれば、壁内に引き込まれるスタイルにするなど、サッシの存在自体を消せるものがより理想的といえます。市販のサッシでこのような工夫が難しい場合は、オリジナルの建具制作も考えてみてはいかがでしょうか。
「浮いた建築費」でいろいろできる
最後に、小さな家だからこそできる快適さやこだわりについてご紹介しましょう。小さな家は、計算上では建築費もコンパクトになります。建築面積が一坪小さくなるだけで、数十万円が浮くことになります。この費用を使って、家の耐震性能や断熱性能、あるいは外装材を耐久性のあるものに変えるなどで、安全性や温熱環境の快適性を高めたり、将来のメンテナンスコストを抑えることにつながります。
既に仕様や性能の高い住宅を検討中であれば、「浮いた建築費」は内装仕上げを無垢材や左官壁にするなどのグレードアップにあてたり、愛着のわく家具や照明器具の購入費用にすることも考えられます。また、先にご紹介した建築家の伊礼智さんは、「小さな家は建築金物をケチってはいけない」と唱えられています。小さな家は、建物のディティールに目が届きやすいため、細部や素材の質感に対しての気配りひとつで、心地よさが変わってくるものです。
小さな家は工夫次第
以上のように、小さな家は設計の工夫やディティールへの気の使い具合によって、快適さや愛着の度合いが変わってきます。そのため、小さな家を建てるときには、「工夫の引き出し」を数多く持っている住宅会社と家づくりをするのがベストといえます。また、相談する際には、天井の高さを変えたり、オリジナルの掃き出し窓の制作への対応が可能かどうかも、あらかじめ確かめておくことが大切です。
中藏はこれまで、京都市中心部などにおける「小さな家」を数多く手がけてきました。その経験の蓄積から、京都で暮らす小さな家づくりのための、さまざまなご提案ができると考えています。