文:下尾芳樹
モアイのミニチュアを作っていた学生時代
アニメやゲームなどの世界では、いわゆる立体的に表現した三次元の3D技術の導入が盛んなようですが、建築の世界で使われる設計図もやがて3D時代になるとみられます。ただ、今はまだ二次元の平面図が主流です。そんな中、中藏に入社して3年目の富田千優さんは「平面図を使っていますが、現場で作業する場合、立体的に考えないとイメージしにくい。立体図に書き直して、大工さんと相談することも多いです。」と明かしてくれました。
「立体的思考」という言葉もありますが、富田さんの場合、幼いころからモノを触ったり、つくったりすることが好きだったと言います。「イースター島のモアイやジオラマにも興味があり、空想しながらミニチュアをよくつくっていました。立体的なモノの見方というか、平面による遠近が理解できないというか、ちょっと、変わり者かもしれません。」と冗談を交えた歓談も慣れたもの。要は正面からだけでなく、上から横から後ろからとあらゆる角度から観察してしまう目線、思考パターンなのでしょう。
立体的思考をもとに建築家に方向転換
小学校まで大阪の豊中市で暮らしましたが、親の仕事の関係で静岡県に引っ越し、迷わず美術科のある高校へ進み、彫刻に打ち込みました。とは言え将来の進路を考えたとき、「彫刻では食べていけそうにないし、ジオラマ関係も職がない。それに親の仕事とは異なる分野で仕事をしたい。」考えた末にモノづくりに通じる建築で活路を見出そうと、京都市にある京都美術工芸大の建築学科へ進みました。
京都を選んだ理由は「城好きの父親に幼いころよく城に連れて行かれたことがきっかけかもしれませんが、とにかく、昔の木造建築に興味があって、寺社や京町家など伝統建築物が多いことに惹かれました。」と言います。実際、大学で伝統建築物の 測量や構造計算などを学ぶうちに「複雑な構造に驚き、木組みの仕口や継木などの技術に深いものを感じました。」と伝統建築物を扱う会社に就職を決意。
そんな中、出会ったのが中藏で、「社員の顔が見えて、風通しが良く、何でもできそう」と思ったそうです。入社直後は戸惑うことも多かったが、「大手のように完全分業ではなく、現場で臨機応変に対応します。施工の段階で考える余地があるというか、モノをつくっているワクワク感も感じられます。」と日々、経験を積んでいます。
ひとり立ちをして自信をつけた3年目
現場監督の見習いを続け、3年目の今年、24歳で初めて全ての作業を1人で任されました。3階建て木造住宅の新築物件で、7月に完成。「あらゆる角度から見て、仕上がりはどうですか」との問いに、「いろいろ変更もあったし、納期に間に合うかどうかも心配で心配で。それでもお施主さんの希望通り、祇園祭までに納めることができました。イメージ通りの仕上がりとなり、お施主さんに喜んでもらえました。」とにんまり。
今後も現場監督としてひとり立ちし、さまざまな案件に対処しなければなりません。立体的・三次元的思考の次は、「四次元思考」があるそうです。思考の幅を過去、現在、未来にまで広げて考えるという、ちょっと解釈が難しいそうですが、現場での段取りから、完成、その後の生活空間まで想像をめぐらすことでしょうか。続けて担当する新築物件は「もっと効率よく作業を進められるよう頑張ります!」と少々自信ありげな回答。四次元的思考が板につくのも案外早いかもしれません。