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中藏ではたらく人/工務部 長岡優花

文:下尾芳樹

研究の道を進むよりも人の顔が見える仕事がしたかった

東京で林立する高層ビルを見上げていて、首筋が痛くなったことがあります。首をほぐしながら、「よくもまあ、こんなビルが造れたものだ」と(わたしと同じように)感心する人も多いかもしれません。ただ、「この巨大構造物。いったい誰のために役立っているのだろうか」と思って見上げる人は、ほとんどいないのではないでしょうか。

ところが、昨年4月、中藏に入社した長岡優花さんは、高層ビルなど構造物を見てそう感じたそうです。長岡さんの専門は建物の構造学。神戸大学工学部建築学科をストレートで合格し、その後、大学院に進んで2年間、主に耐震に関連する構造を研究しました。この経歴を聞くと、卒業後そのまま大手ゼネコンの研究機関などに就職しそうなものですが、そうではなく中小の工務店・中藏を選んだわけです。

「ビルや橋などの建設における構造研究は大切な分野ですが、携わった仕事がどう役立っているのかわからない。コンクリートや鉄骨を使った構造計算は人の顔が見えません。建築物の規模は小さくても関係者の顔が見え、自分が役に立っていると思える仕事がしたかった」。はっきりとしたビジョンを持ち、就職も企業の大小で決めないイマドキの若者なのでしょうか。

失敗を恐れずに体当たりする日々

中藏に入った理由として、大学2年の時、カナダのバンクーバーに2カ月ほど語学留学した際、町並みを見て回った体験も大きいようです。「日本の町並みって統一感がなく、ビルも民家もバラバラでしょう。でもバンクーバーは町並みが本当に美しかった。京都も町家が連なる町並みが残り、中藏ではその保全を訴えている。それと、中藏では町家の他にビルなど一般建築も手掛けられ、いろんなことが学べる。ちょっと欲張りですが…」とはにかみながら説明してくれました。

ピカピカの1年生を卒業し、現場の一部を任されるようになっています。新築物件の現場監督補佐で、毎日、職人さんと直接交渉しつつ、お施主さまにも工事の進捗を随時報告。現場でいまの心境を聞くと、「構造の世界とはまるっきり違います。未知の世界で、失敗も多く、助けられることも多く、正直言って現場を動かすのは大変です」と言いながら、「実は現場に早く出て、監督をさせてほしいと先輩に直訴しました」とも。当たって砕けろという強い気持ちも垣間見えて、案外、度胸もありそうな大阪府出身の26歳。実社会で経験を積んでいくのはこれからです。

幼いころに見ていた住宅チラシがこの道の原点

それにしても、もともと建築に興味があったかというとそうでもなさそうで、「本当は犬が好きで獣医になろうと思ったのですが、犬の死にも立ち会う必要があり、ちょっと無理と思って、学校の教師になろうかとも」。思い悩んだ末、結局、進路を建築に定めるのですが、その理由が「子どものころからいつも住宅チラシを見ていて、この家が自分の家だったら、ここは私の部屋、あそこは兄の部屋と想像するのが好きでした。チラシが原点かもしれません」。建築家の作品に感動したとか、建物の構造に不思議を感じたといった答えが返ってくると思ったのですが、チラシとは予想外。それでもその意外性から、予想外の飛躍も期待できます。

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