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左官業・遊見さんが語る「手間がかかる、自然が相手だからこそ人の手でしかできない仕事。 だから奥が深くて面白い」

遊見工業・遊見さん

文:広報部

中藏の家づくりの仕事は、たくさんの業種の会社や職人さんの協力の元に成り立っています。今回は、そのような会社のひとつであり、中藏の左官部から独立し、左官工事を担当していただいている遊見(すさみ)工業の社長、遊見志郎さんにお話をうかがいました。

―「左官」と聞くと「土壁」の印象が強いのですが、実際はどうなのでしょうか?

遊見さん:京都は町家の改修工事などがありますから、確かに土壁の左官工事の依頼はあります。ただし、新築の家で土壁を採用することはほとんどありません。私もこの仕事を長くしていますが、新築での土壁の施工経験はこれまで一軒だけでした。

―その理由は? 土壁は作業としてたいへんなのでしょうか?

遊見さん:ネックは「施工期間」です。本格的な土壁は下地となる竹材を編み、それを挟むように壁土を塗っていく「荒壁」づくりから始まります。この状態で十分に乾かさないと、その後にカビが発生する原因となります。荒壁が乾いたら、「中塗り」「上塗り」と何層にも壁土を塗り重ねていくのですが、そのたびにまた、乾燥の時間が必要となります。その期間を合計すると一年近くに及びます。土壁の家づくりをするには、まず、この時間をお待ちいただだけるかどうかが、課題となるのです。

ただし、土壁は古くから日本の建築に使われてきたように、調湿作用があり、また土の粒子の間に空気を含み断熱効果があるため、日本の夏は暑く湿気が多い、また冬は寒く乾燥する気候に適した建築材料でもあります。

―なるほど、メリットはあるけど、施工期間やコスト面で、敷居が高くなるわけですね

遊見さん:最近では、土壁の良さを生かしながら施工が容易な塗り壁材もありますから、そちらを選択する手はあります。「珪藻土」などもそのひとつです。土壁と同じく調湿作用を持ち、また室内のニオイなどを吸着してくれます。アレルギーに効果があるという話も聞きますね。また、漆喰壁も同様の効果があります。

珪藻土や漆喰などの塗り壁と一般的なボードの上に壁紙を貼った壁との違いは、梅雨時など湿気の多い日に特にメリットを感じますよ。空気がジメジメせず、サラッとしているんです。

―壁以外に左官のお仕事の領域としては、どのようなものがあるのでしょうか?

遊見さん:建物の床を平らにするのも左官の仕事です。新築はもちろん、リフォームでも。特に古い家では床面が微妙に傾いていたり凹凸があったりするため、それらを平滑にする仕事は多いです。公共工事の耐震改修などでも出番があります。ただし、その多くは、最後に仕上げのタイルやカーペットが貼られてしまうため、直に目にすることができないのが施工した者としては少し残念ですね。施工した仕事のうち、完成した姿のままで目にすることができるのは、1〜2割程度だと思います。

―8割以上は完成すると見えなくなってしまう。ちょっと辛いですね。

遊見さん:百貨店内のブランドショップや飲食店などの店舗の仕事だと、壁や土間などに自分たちの手の跡が残ることが比較的多いかもしれません。そのようなお店には、どのような雰囲気になっているか、開店した後に覗きに行ったりしますね。

その点でいうと、「外構」の仕事も好きですね。住宅だと、お引き渡し後は内部を見ることはできませんが、外構であれば、前を通ったりする際に「どのように使われているか?」「経年変化は?」などを確かめることができますから。また、外構は住宅の完成・お引渡し後に工事することも多いため、入居された施主様と相談しながら工事することもしばしば。そういったことも思い出として重なり、やりがいにつながりますね。

左官鏝

―左官の仕事は幅が広いんですね

遊見さん:「土に関することであればなんでも」という感じでしょうか。それ以外にも、セメント、漆喰、タイル、ブロックとなんでも扱います。なかでも「土」は表情が豊かな上に、自分の技術が向上すれば、さらにその特徴を引き出すことができる。そういった点に、ウチの職人たちはやりがい、やりごたえを感じているようです。

―遊見さんが考える左官業の将来は?

遊見さん:土がある限り左官の仕事はあると考えます。土が相手のため、天気に左右されるのはいつものこと。特に冬場は乾燥待ちのために現場で待機することも。そのようなアナログな仕事だからこそ、機械には置き換えることができないかなと。逆にいえば、どれだけ機械化や情報化が進んだとしても必要とされる仕事ではないかと考えています。

今後、左官職人の年齢は高齢化していくことを考えると、若い人にはチャンスのある職業かもしれませんよ。

―確かに、左官は日本の建築ではなくてはならなった仕事であり、今後も不可欠な仕事ですよね。ありがとうございました。

* * *

多くの人が「土」に対して持つ、ぬくもりや癒やしの感覚、さらに塗り壁の持つ機能性。それらを建築に取り込むのに不可欠なのが、左官職人さんの手仕事です。そして、私たち中藏は、明治時代に左官業からはじまった会社として、そのような左官の人間味のある技には特別の思いを抱いております。

そのような贔屓目の視点かもしれませんが、今後、社会がより高度情報化され、人との触れ合いが希薄になっていく中でこそ、左官の技の温もりのある質感が求められるのではと考えています。そのようなご要望に応えていくためにも、最新の建築の技術と伝統的な左官の技を融合させる、あるいは街の景色として身近なものにしていくなど、これからの左官のかたちを積極的に提案していくのが私たちの役割ではないかと考えます。

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